第0報 停滞する核軍縮に希望の灯がともるか(2013.4.21)

第0報 停滞する核軍縮に希望の灯がともるか(2013.4.21)

UN Office at Geneva(会議が開かれる国連欧州本部)

昨年の第1回準備委員会(ウィーン)に引き続いて、2015年核不拡散条約(NPT)再検討会議の第2回準備委員会が、2013年4月22日(月)~5月3日(金)にスイスのジュネーブで開催される。会議場は国際連合(UN)欧州本部である。この場所は国際連盟の本部として1938年に完成したもので仏語でパレ・デ・ナシオンと呼ばれる。後述するように、「核兵器の非人道性」の原理が最近の核兵器廃絶への国際的気運を牽引してきたが、それには赤十字国際委員会(ICRC)が大きな貢献をした。そのICRCは道路を隔ててパレ・デ・ナシオンと対面する場所にある。またスイス政府はICRCを代弁する政府として、その主張を支援する役割を果たしてきた。昨年10月22日、国連総会において(34+1)か国を代表して「核軍縮の人道的側面に関する共同声明」を発表したのはスイス政府であった。その意味では、今回の準備委員会がジュネーブで開催されることは、会議を包み込む良好な環境を醸成するのに一役買うと期待される。

会議スケジュール

第2回準備委員会の議長はルーマニアのコーネル・フェルーツァ大使(CORNEL FERUŢĂ、カタカナ表記は在日ルーマニア大使館による)と予定されている。

公表された暫定プログラムによると以下のような日程が想定されている。午前のセッションは10時~午後1時、午後のセッションは午後3時~午後6時である。

【4月22日(月)】午前:開会、一般討論 / 午後:一般討論
【4月23日(火)】午前:一般討論 / 午後:一般討論
【4月24日(水)】午前:NGOの意見発表 / 午後:クラスター1議題(後述)
【4月25日(木)】午前:クラスター1議題 / 午後:クラスター1特定問題(核軍縮、安全の保証)
【4月26日(金)】午前:クラスター1特定問題(核軍縮、安全の保証) / 午後:クラスター2議題(後述)
【4月29日(月)】午前:クラスター2議題 / 午後:クラスター2特定問題(中東及び1995年中東決議の履行など地域問題)
【4月30日(火)】午前:クラスター2特定問題(中東及び1995年中東決議の履行など地域問題) / 午後:クラスター3議題(後述)
【5月1日(水)】午前:クラスター3議題 / 午後:クラスター3特定問題(核エネルギー平和利用、条約のその他の条項)
【5月2日(木)】午前:強化された再検討プロセスの効率向上
【5月3日(金)】午前:準備委員会報告書草案の検討 / 午後:準備委員会報告書草案の検討と採択、その他

NPT再検討会議は、条約のすべての条項や過去の合意文書(1995年、2000年、2010年における決定、決議、合意)に照らして現状を検討し、改善策を議論する会議であるが、諸問題を次のような3つの問題群(クラスター)に分けている。この分け方は、2010年のNPT再検討会議における主要委員会I、II、IIIへの議題の配分に従ったものである。

【クラスター1議題】
核不拡散、核軍縮、並びに国際安全保障に関連する条項の履行問題、及び安全の保証問題
【クラスター2議題】
核不拡散、保障措置、並びに非核兵器地帯に関連する条項の履行問題
【クラスター3議題】
平和目的の核エネルギーの開発研究、生産、並びに利用への条約締約国の奪い得ない権利に関連する条項の履行問題、及びその他の条項の問題

第2回準備委員会の注目点

第2回準備委員会の注目点は何だろうか?

それを考えるために今回の会議に至る流れを振り返っておきたい。2005年の再検討会議が何の成果もなく失敗に終わったのに反して、2010年再検討会議はいくつかの前進を勝ちとった。なかでも64項目の行動計画を含む全会一致の最終文書が採択されたことは重要な前進であった。その背景には米国にオバマ政権が登場し「核兵器のない世界」への世界的潮流が生まれたことあった。2010年合意には次の3点の新しい要素があった。

①核兵器禁止条約の交渉、あるいは相互に補強しあう「別々の条約の枠組み」に関する合意を検討するべきとの国連事務総長の提案に初めて言及した。

②核兵器の非人道的性格について、NPT合意文書として初めて言及した。その内容は1996年の国際司法裁判所の勧告的意見よりも強いものであり、例外を許さない表現となった。

③1995年のNPT再検討・延長会議で採択された中東決議の履行について、2012年中の中東非核・非大量破壊兵器地帯設立のための関係国すべてが参加する国際会議の開催など、具体的な次の一歩が決定された。

残念ながら、昨年の第1回準備委員会を含め、その後の経過を踏まえたとき、核軍縮の動きは総じて停滞していると言わざるを得ない。その停滞を打ち破る動きがどのようにして生まれるのだろうか?私たちは第2回準備委員会において次のような点に着目して監視したい。

(1)コスタリカと「オープン参加国作業グループ」の行方

上記の①の核兵器禁止条約あるいは「条約の枠組み」は、長崎の私たちにとって極めて関心の強いものであるが、残念ながら直接的な進展は極めて乏しい。しかし、昨年の12月3日に採択された国連総会決議で、国連加盟国すべてが参加できる、核軍縮のための「オープン参加国作業グループ」(OEWG)の開催を決定したのは、せめてもの前進であった。今年のOEWGの会合は15日間ジュネーブで開催される。この流れはオーストリア、メキシコ、ノルウェーがイニシャチブをとり、16か国が決議の提案国となった。3月14日にその準備会合が開かれ、コスタリカのマニュエル・デンゴ国連大使が議長を務めることとなった。会議は今年の5月、6月、8月に開催される。したがって、上記3か国や議長となったコスタリカ政府が、この会議に関してどのように発言するかが注目される。

「核兵器のない世界」に向かうためには、核兵器禁止の法的枠組みに関する交渉のテーブルが生まれることが不可欠であり、そのためにはOEWGに限らず大胆なイニシャチブが生まれることが必要であり、この点に関するNGOの動向をつねに注視する必要がある。

(2)メキシコと「核兵器の人道的側面」の動向

②に関しては、昨年の第1回準備委員会で16か国共同声明が出され、秋には冒頭に掲げた34+1)か国共同声明に発展した。さらに、ノルウェー政府のイニシャチブによって今年3月4~5日「核兵器の人道的影響に関する国際会議」がオスロで開催された。オスロ会議は影響の科学的知見を共有することに焦点が当てられたが、会議を終えるに当たって、メキシコがフォローアップ会議を開催すると申し出た。

このような経過から、今回の準備委員会においてオスロ会議の発展がいかに企図されるかが注目される。共同声明の賛同者の拡大が図られる可能性とともに、ノルウェーやメキシコの動向に注目したい。

(3)中東決議履行の行き詰まりの打開と北東アジア

2012年中の開催を決定していた中東決議履行のための国際会議が実現していないことは、第2回準備委員会に暗い影を投げかけている。場合によっては議事進行に深刻な障害が生まれる可能性もある。2011年10月にフィンランドが開催国を引き受け、フィンランドのヤッコ・ラーヤバ同国国務次官がファシリテーターに決定した。フィンランドの努力にもかかわらず、昨年の11月に招集者(米、ロ、英、国連)は現状では開催が不可能であると発表した。これに対してエジプトなど中東諸国が強く反発をしている。

この状況の打開がいかに図られるかが、ジュネーブ会議の一つの重要な焦点となる。単に中東問題に留まらず、NPT条約体制の信頼性に関わる問題になりかねないからである。

脱退宣言によって北朝鮮が参加していない会議ではあるが、朝鮮半島を含む北東アジアの非核化問題は中東と同じように強い関心が集る問題である。モンゴルを初め他の非核兵器地帯の参加国がどのようにこれに言及するかについて、私たちの関心を注ぎたい。

(4)日本政府の動向

当然のこととして私たちは日本政府の動きにたえず関心を払うことになる。被爆国日本が核兵器廃絶のために果たすことのできる役割は大きい。上記の3つの注目点において日本政府がどのような立場で行動するかを私たちは注視したい。たとえば、人道的側面についての共同声明の署名国拡大が図られたとき、日本政府がそれに参加する姿勢に転じるかどうかが問題となる。

また、日本政府は、日本政府のイニシャチブで生まれた10か国のグループ「核軍縮・不拡散イニシャチブ」(NPDI)を活用して準備委員会に臨んでいる。このグループに含まれているメキシコなどの積極的な動きを、グループ全体の動きにするためには日本政府がどういう働きをするのかを注視したい。

今回のブログは第0報を初めとする正規の日報の他に、随時のライブな短信も盛り込んで発信する予定である。日報は、梅林宏道、広瀬訓、中村桂子が協働して取り組む。